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レッドグレープリーフ(赤ぶどう葉)〜血流改善とむくみの抗酸化素材
レッドグレープリーフ Red Grape Leaf
赤ブドウ葉は抗酸化物質が豊富なハーブです。ティーはフルーティーな香りで、ほんのり酸味を感じる上品な味わいです。
学名: Vitis vinifera
和名・別名:赤ブドウ葉
科名:ブドウ科
使用部位:葉部
植物分類と歴史
ヨーロッパブドウ(ヴィニフェラ種)はヨーロッパ南部、イラン東北部を原産地とするブドウである。現在の生食用、ブドウ酒用及び台木用品種(種)はアジア西部及び北米大陸原生種の純系、あるいは両者間の交雑によって作出されたものがほとんどであり、その数は1万品種以上に及んでいる。
そもそも、ぶどうの品種を大きく分けるとヨーロッパ種とアメリカ種がある。アメリカ種はヴィティス・ラブルスカ(Vitis Labrusca)と呼ばれていて、キャンベル、コンコード、ナイアガラなどが代表的な品種である。主には生食用に栽培されており、ワイン用に使用されることは少ない。かたや、Vitis vinifera(ヴィティス・ヴィニフェラ)種のようなヨーロッパ種のぶどうは、生食用のぶどうに比べて糖度・酸度が高く、粒が小さいことが特徴。皮や種の比率が多いながらも、香味成分が非常に多いため、香り高い上質なワイン造りに適した品種とされている。
ヨーロッパブドウVitis属は古代ブドウの原種1種しか存在しないが、伝播の方向によって西洋系、黒海系、東洋系の大きく三大地理的原生種群に分けられるようになったとされる。代表的な品種には、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニョン・ブラン、リースニング、甲州などワイン好きならよくご存知の品種がある。ブドウの果実はベリー(*漿果:しょうか)に分類され、野生種では直径6mmの果実をつけ、表面にかすかな蝋状粉をつけて暗紫色に熟する。栽培種は最大3cmまで肥大し、緑色、赤、紫色の果実をつける。一般的に湿気の多い森林や渓流で自生している。
*果皮による果実の分類では「乾果(果皮が比較的薄く、乾燥している果実。)」、「液果(少なくとも果皮の一部が多肉質または液質(つまり果肉)となる果実。)、「漿果(真正液果)内果皮も中果皮も多肉質な液果。」に分類される。
野生種は、亜種であるVitis vinifera subsp.Sylvestris(ヴィティス・ヴィニフェラ・亜種シルベストリス)に分類され、Vitis vinifera subsp. vinifera(ヴィティス・ヴィニフェラ・亜種ヴィニフェラ) は栽培種に限定して使われる。栽培種は両性花であるがsylvestrisは雌雄異株である。
また、V. amurensis (ヴィティス・アムレンシス)は、アジアを原産とする種のひとつで、朝鮮半島、中国東北部、ロシアに自生し、寒さに強い品種だ。和名はチョウセンヤマブドウまたはマンシュウヤマブドウと呼ばれる。その他、クマガワブドウ、アマヅル、リュウキュウガネブ、ヨコグラブドウ、ケナシエビヅルなど、日本では15種類の野生ブドウの自生が確認されている。
また、アジア大陸には中国を中心に、約40種の野生ブドウが確認され、日本の野生ブドウと同種または近縁種も確認されている。なかでもV. shiragai (ヴィティス・シラガイ)という品種がある。これは岡山県・高梁川流域の限られた地域に自生する野生ブドウで、和名はシラガブドウという。自生地での個体数が減少していて、絶滅が危惧されている品種だ。アムレンシスと同種とする分類学者もいるが、アムレンシスは寒冷地に自生するのに対し、シラガブドウは温暖な地域に自生することから生態的相違点が大きいので、全くの別種であると考えた方がよい。和名および学名は植物分類学者、牧野富太郎が情報を提供してくれた白神寿吉に因んで命名したといわれる。
学術データ(食経験/機能性)
ブドウ葉の食経験については、古来より無農薬栽培のブドウ葉はギリシャ料理やトルコ料理などに活用されている。しかしながら日本における長期の食経験はほとんど見られなかった。日本では生果用のブドウ栽培において農薬を用いることが多いため、農薬散布後の葉の活用には課題があると考えられたためといわれている。
赤ワインに含まれるポリフェノールが健康によいことは周知の事実だが、実はポリフェノール類はワイン自体より葉っぱに多く含まれていることを知らない人も多い。特に赤ブドウ葉(レッドグレープリーフ)だが、血液循環などによい影響を与えるハーブとして、ワイン農家ではカラダの巡りを整えるハーブティーとして赤ブドウの葉を愛飲し、カスピ海やエーゲ海周辺では、葉を利用した郷土料理も知られている。
代表的な葉っぱの料理として「ドルマデス」という料理が知られる。ギリシャ、トルコなどの地域でもいろいろな作り方があり、名称もそれぞれ。エジプトでも葉に包んで蒸す、「マハシ」という米包み&詰め料理がある。どの地域でも基本は、挽肉に玉ねぎのみじん切りと米を適当な分量で混ぜて、軸をとった葉っぱの裏側に乗せて包み、鍋にギュウギュウに敷き詰めてバターと水を入れてくつくつ煮るだけというシンプルな家庭料理だ。ヨーグルトににんにくを混ぜたソースを添えたり、レモンをギュっと絞って食す。結構うまい地中海料理だ。
ドルマデス
地中海料理は日本の沖縄料理と同様に、世界的には機能性成分を多く含む健康食として世界中で研究されている。
このブドウの葉っぱ料理も体によい伝統食品の一つである。葉っぱには赤ワインよりも多くのレスベラトロールやポリフェノール類を含み、健康を維持するためのエイジングケアをサポートしてくれる。
赤ブドウ葉は4.0%以上の総ポリフェノールと0.2%以上のアントシアン配糖体を含む。
スイスの製薬メーカーの資料では赤ブドウ葉エキスには赤ワインやブドウ種子よりも多くの成分を含み、赤ワインの100〜300倍のポリフェノールを含んでいるという。ポリフェノールはご存知のとおり、活性酸素から受けるダメージを抑え、老化防止、生活習慣病の改善などが期待され、血管の保護、血液循環の改善、動脈硬化の予防などが考えられている。
ドイツではOTC医薬品として、むくみや静脈の疾患(静脈瘤、静脈不全)などの治療に使われている。赤ブドウ葉乾燥エキス混合物は、下肢静脈からの水分の漏れを防ぐシーリング作用や血小板凝集抑制作用、抗浮腫作用などの薬理作用により、軽度の静脈還流障害による足のむくみを改善することが認められている。
ところで赤ブドウ葉に関する最初の研究は1953年にフランスで行われ、1996年にフランスの薬に関する基準書「フランス薬局方」に記載された。血管保護作用が有るとの考えから静脈不全、表在性毛細血管症候群の治療に用いられている。
(Pharmacopee Francaise (1996)X版、La commission nationale de Pharmacopee, Paris)
その後2010年にモノグラフに収載され、西洋ハーブ医薬品として取り扱われている。ポリフェノール自体は以前から知られていたにもかかわらず、まだその機能性の研究が進んでいなかった成分だった。特にレスベラトロールは、あの有名な「フランス人は、肉・乳製品などの高脂肪食を多く摂取するにもかかわらず、動脈硬化や心臓病による死亡が少ない」という「*フレンチ・パラドックス(フランス人の謎)」を解くカギとなったことは、多くの周知である。
*FAO(国際連合食糧農業機関)の調査では、フランス人はアメリカ人に比較して4倍量のバター、60%増しのチーズ、3倍近い量の豚肉を多く食べているが、35〜74歳の男性の虚血性心疾患による死亡率は、米国では10万人あたり115人で、フランスでは10万人あたり83人のみであるという結果が得られている。
活性酸素のダメージを抑え、老化防止、生活習慣病の改善などに効果を表す成分には多種多様な種類があるが、赤ブドウ葉で特に注目されるのが、アントシアニジン類、トランス-レスベラトールなどの成分だ。トランス-レスベラトールはブドウが真菌や紫外線からのストレスから身を守るために産出される活性代謝物だ。抗炎症活性や抗血小板活性を持ち、さらにLDLの量を減らしてHDLを増加させて、動脈硬化にも有効だ。
アントシアニン類(及びプロアントシアニジン類)は、赤ブドウ葉の成分中でも特に強い抗酸化作用を持ち、血管の保護、血液循環の改善、動脈硬化の予防などに効果が報告されている。プロアントシアニジンというと、ハーブの世界では「心臓のハーブ」と呼ばれる、心筋の陽性変力作用で知られるホーソンベリーが有名だが、このブドウ葉にも多く含まれる成分だ。
トランスーレスベラトロール
プロアントシアニジン
そもそも西洋ハーブの医薬品は、1995年に設立された欧州医薬品庁(EMA)等により、基原植物やその使用法が規定され、有効性、品質管理、製造プロセスなどが明確に定義された「生薬製剤」(Herbal medicinal products)のことを指す。現在ではこの厳しい基準に合致したものだけが有効性が認められた医薬品とされている。中でも「Well-established use」とされている西洋ハーブは、歴史的な使用年数に関わらず、科学的根拠データを基にその効能・効果等が評価された西洋ハーブである。
赤ぶどう葉もその中のひとつで、昔から広く親しまれていたハーブとしての民間療法が西洋ハーブ医薬品として取り扱われるようになって、現在では世界25カ国ほどで利用されている。日本では、2007年に西洋ハーブの承認審査のルールが示されたことにより、2011年に赤ブドウ葉乾燥エキス混合物(新有効成分)配合の医薬品が初めて承認され、市販薬のむくみ薬「アンチスタックス」として販売されているのはご存知の方も多いだろう。
この赤ブドウ葉エキスは、西洋ハーブ医薬品として日本で初めて承認された有効成分だ。フランスでは昔から、赤ワイン用のブドウの葉から抽出した水性エキスが脚の健康法に利用されていた。ワイン農家の人たちが足の不調に悩まないのはどうしてだろうという疑問も、赤ワインの薬用の研究に拍車をかけたと言われる。17世紀には植物療法家(ハーバリスト)が出現し、様々な薬草書を執筆し、その中で赤ブドウ葉についてむくみなどの医療での利用についても述べられている。
ところで、紅葉のプロセスの生化学的基礎はほとんど解明されていて、年老いた葉からは葉緑素が失われていくことも知られている。これは窒素を貯えるためだ。ほとんどの植物は大気中の窒素を固定できないため、窒素は貴重な成分なのだ。緑の色素が消失するとキサントフィルの黄色が目に見えるようになる。キサントフィルは葉緑素とともに葉緑体に存在する酸化カロチノイドの一種。植物によっては葉か葉緑素が「抜けていく」のに対して、可視光や紫外線を吸収できる色素を産生するものもある。赤く色づく葉の場合は、その色を作り出しているのがアントシアニンだ。
一般的に緑のブドウの葉にはアントシアニンはさほど多く含まれていないが、成熟期にはこの種の化合物(シアニジン-3-モノグルコシドとペオニジン-3-モノグルコシドなど)の産生が増加するという。その結果これらの化合物が大量に蓄積され、葉が深赤色になるのだ。
赤くなったブドウの葉
注目すべき点はこうした葉に含まれるアントシアニンが、ペリー類に含まれるアントシアニンとは異なるという点だ。
ブドウには6種類のアントシアニジン(ぺラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジン、ペオニジン、ペチュニジン、マルビジン)に大別され、それぞれ異なる色調を発現する。
品種によって含まれるアントシアニンの種類、含有量が違う。一般的に赤色系ではシアニジンが多く黒色系ではマルビジンが多く含まれる。ブドウの皮の色によっても色素の種類がことなる。一般にベリー類に含まれるアントシアニンはマルビジンが主であり、赤ブドウの葉はシアニジンが多く含まれると言われるが、それぞれのアグリコンの様々な位置に様々な糖が結合しているアントシアニンは、現在まで少なくとも100種類が植物に見出されているため、実際のところアントシアニンとアントシアニジンの抗酸化力を単純に比較することは困難のようだ。
同じアントシアニジンの配糖体でも糖の種類や付加位置により、また糖に芳香族アシル基が付加している場合も抗酸化力は異なるので、一概にどちらに優位性があるかは判断しづらい。例えば、(アグリコンの一つである)シアニジンとシアニジン-3-グルコシドの抗酸化力をリノール酸の過酸化、リポソームの過酸化、ミクロソームの過酸化、赤血球の過酸化反応などに対する抑制効果で比較した結果によれば、シアニジンはその配糖体に比べ僅かに抗酸化活性が高くなっているが、あくまで一例にすぎない。
あるいは、芳香族アシル基などが糖に結合していると抗酸化活性は高くなることがよくあり、さらにどのような系を用いて抗酸化力を比較するかによっても異なってくるようだ。
いずれにせよワインだけではなく、たまにはレッドグレープリーフのハーブティーやカリウムの多い食品を取っておけば、むくみの解消や血液サラサラ作用の恩恵をさらに受けられることは間違いなさそうだ。またブドウ葉は葉物野菜等と比較して脂質、カルシウム、カリウムなどが多く含まれていることが報告されているので、ティーや食材としてももっと活用してほしい。
(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)
参考文献(書籍)
「プリニウス博物誌(植物篇)」大槻真一郎 編集
「薬用ハーブの宝箱」マリア・トレーベン著
「中世の食生活」B・A・ヘニッシュ著 藤原 保明 訳
「中世ヨーロッパの生活」ジュヌヴィエーヴ・ドークール著 大島誠訳
「修道院の薬草箱」ヨハネス・G・マイヤー、キリアン・ザウムほか著
「ポプラディア情報館 世界の料理」サカイ優佳子,田平恵美 編
「天然食品・薬品・香粧品の事典」 小林彰夫ら監訳
「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編
「Botanical Safety Handbook」 アメリカハーブ製品協会(AHPA)編
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「The Green Pharmacy」 James A Duke著
データベース・公文書等
NIH National Library of Medicine’s MedlinePlus Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版
Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
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