アジアンフードの主役は心身疲労のケアマネ〜レモングラス

レモングラス Lemongrass
Herb of star of asian foods,and also care manager of mental and physical fatigue.(Lemongrass)

レモングラスはスパイスでもあり、また心身ケアにも有用なメディカルハーブです。

学名: Cymbopogon citratus / flexuosus (キンボポゴン・キトラトゥス/フレクスオスス)
和名・別名:レモンソウ、檸檬茅(レモンガヤ)、コウボウ、シトロネラ、タクライ(タイ語)

科名:イネ科
使用部位:葉部、根部


leaf3_mini 植物分類と歴史

レモングラスはイネ科オガルカヤ属の多年草植物で、茂る様子はまさにイネやススキのような感じだ。標準和名は檸檬茅(れもんがや)といい、香りはレモンによく似ておりフレッシュで力強い香りと爽やかで清々しい味が特徴だ。
そのため「檸檬(レモン)」の香りがするススキなどを意味する「茅(カヤ)」という事なのだろう。イネ科でカルカヤと呼ばれるものにはオガルカヤ(雄刈萱Cymbopogon tortilis (Presl) Hitchc. var. goeringii (Steud.) Hand.-Mazz.)とメガルカヤ(雌刈萱 Themeda triandra Forsk. var. japonica (Willd.) Makino)があるが,両者はそれぞれ別属のものである。メガルカヤはオガルカヤに対応して、それよりも小形でかわいいためつけられた名称だ。
一般的にレモングラスとかシトロネラなどと呼ばれるハーブはCymbopogon(オガルカヤ)属にあたる。ここでは、Cymbopogon(オガルカヤ)属をレモングラスとして紹介する。

レモングラスは系統分類上、ウエストインディアン・レモングラス(西インド型)と呼ばれるものとイーストインディアン・レモングラス(東インド型)とがあり、いずれも同じ香りを持つが、西インド型の方が香りの質が良く料理などに適しているとされる。オガルカヤ属には50種以上の種がある。本種はおそらくマレーシア原産であり、東インド型(C. flexuosus)はインド、スリランカ、ミャンマー、タイ原産である。本種のほうが料理に適している。
またインドでは、伝統医学・アーユルヴェーダで伝染病、発熱、鎮静剤、殺虫剤として用いられたり、香料として使われる。他の香料用の種として C. martini や、シトロネラ油が得られるジャワシトロネラソウC. winterianus Jowitt)などがある。また虫除け効果があるとされるコウスイガヤC. nardus、シトロネラグラス)などもオガルカヤ属に含まれる。
レモングラスの原産地はインドであるが、現在ではアジア、南米、中米、アフリカの熱帯地域で広く栽培されている。一般的に株分けによる栄養繁殖を行い、2、3ヶ月の栽培期間を経て地上部を収穫する。強い匂いがあるので害虫もほとんど付かず、水やりはあまり必要ないので暑くても日当たりが良く肥えた土地であれば、どこでも育つと言われている。年間を通して暖かい熱帯アジアの土地に最適のハーブなのだ。ちなみに四季のある日本で育てる際には、晩秋から春先にかけては室内の日当たりの良い所へおいて置いておくとよい。冬は株分けをして保存することも多い。9月中に葉を刈り込んでしまって根元を箱や鉢でカバーし越冬させるのがお勧めだそう。また大きな鉢で越冬させたレモングラスを春に株分けして増やすのも一つの方法のようだ。

レモングラスの株分け

レモングラスの歴史

西洋ハーブと違って、東南アジアのハーブは、伝統的な歴史は古くても、伝承文化という背景もあり、なかなか書物や研究資料が少ない。その中でもレモングラスは数千年に渡って非常に長くインドやタイの伝統的な医学で使用されてきた歴史を持ち、多少は実例が多いハーブではある。
インドでは「チューマナ・プールー」という名前で知られている。これはレモングラスの茎の根元が赤くなることから、「赤い茎」という意味だ。古代医療アーユルヴェーダでは伝染病・熱病・発熱・吐き気などの治療薬、母乳の出をよくする作用で「冷やすハーブ」として解熱や感染症の治療に使われてきた。特に精油は熱を下げ、感染症をなおし、腫瘍の進行を食い止めるのに使用されていた。
中国でも頭痛や胃腸の不調、自律神経のバランスを整える働きの生薬として利用されてきた。1786年には「バンクスの本草書」などで知られているリチャード・バンクス卿によってイギリスに伝来し、日本では1914年に大谷光瑞(明治生まれの宗教家・探検家)によって温室栽培されたのが日本初だといわれている。
第二次世界大戦が起こるまで、インドがレモングラスの主な製油の主要な供給国だったが、その後は、西インド諸島に代わっていった。現在では多くの国で食用ハーブやハーブティーとして親しまれていることはご存知の通り。精油もインドから中国まで広い地域で薬として用いられてきた。またチベットやブータンでは竜神がくわえている神聖な植物と言い伝えられており、中国ではレモングラスは「香茅(コウボウ)」と呼ばれている。
日本でのレモングラス栽培の歴史は、戦後伊豆、九州南部で小規模栽培が行われたことに由来するが、経済的な生産には至っていなかったようだ。近年ハーブに関心度が高まっている中、中山間地 農業の活性化、遊休農地、耕作放棄地などの有効利用、農業従事者の高齢化への対策として、イネなどに比べて比較的栽培が容易で手間やコストがかからないレモングラスが注目されている。


leaf3_mini 安全性と相互作用

安全性:クラス1
相互作用:クラスA

(Botanical Safety Handbook 2nd edition アメリカハーブ製品協会(AHPA)収載)


leaf3_mini 学術データ(食経験/機能性)

レモングラスは世界三大スープとしても知名度の高いトムヤムクンやココナッツミルク入りのマイルドスープ、トムカーなどタイ料理には欠かせないハーブの一つだ。タイ料理は、6世紀から13世紀にかけて中国の雲南省から移民してきた中国系民族がもたらした中華料理がベースになっていると言われている。中国料理の材料を日干しする、油で揚げる、炒めるといった調理技術が元になり、それに伴う調理器具、中華鍋や蒸籠などが中国から持ち込まれていった。14世紀~17世紀のアユタヤ王朝時代には徐々に国際貿易が盛んになり、外国から影響を受けだんだん現代のタイ料理らしくなっていった。タイは南北に細長い国で、北はラオス・ミャンマー国境の山岳地帯、南は海に面したマレー半島にまで達し、地方によって食材は様々。国土の大半を占める平野では米が大量に採れ、ゆったり流れるメコン川では肥えた川魚が多く採れ豊かな土地だ。

タイ料理の味の特徴「辛、甘、酸、塩」

地方によってそれぞれ特色はあるものの、辛い、甘い、酸っぱいといった、はっきりした味付けが特徴だ。タイの人に言わせると、「辛い=おいしい」だそう。辛くないタイ料理も多少あるが、大概の料理には、世界で一番辛いと言われる小粒の唐辛子プリッキーヌーを始め、大きな干し唐辛子のプリックヘーン、粉唐辛子のプリックボンなどをたくさん使う。また甘いのも特徴だ。砂糖を大量に使用し、その種類も豊富だ。椰子(やし)から作ったパームシュガー、サトウキビから作った砂糖(ざらめや黒砂糖)、そして蜂蜜など。自家製の椰子糖を作る家庭もあり、料理によって様々な砂糖を使い分け味わいを深めている。そして酸っぱさも特徴の一つ。ライムのような形と色のマナーオと呼ばれるタイレモンが使われる。普通のレモンやライムより酸っぱく、まな板の上でゴロゴロと板ずりしてから使用すると果汁がたくさん出てくる。また豆科の植物タマリンドも、コクのある酸味を出す調味料として頻繁に使用されている。

タマリンド

タマリンドはジュースでも有名だ。焼酎で割ってサワーにしても美味しい(夏場はタマリンドジュースを焼酎&炭酸でタマリンドサワーがおすすめ。ぜひ試していただきたい。)
またタイの屋台やテーブルの上には、必ずと言っていい程、「クルーンプルン」と呼ばれる、砂糖、粉唐辛子、ナンプラー、唐辛子入りの酢の4点セットがおいてある。麺類やチャーハンにも砂糖をかけ、テーブル上で自分好みの辛、甘、酸、塩味にカスタマイズして食べるのがタイ流だ。

タマリンド、パームシュガー、こぶみかん(実と葉)、レモングラス、唐辛子

●レモングラスの機能性
レモングラスは食材としての利用の他に、胃腸の不調やインフルエンザなどの感染症の予防、発熱、局所の炎症の緩和などを目的にアジアの伝統療法の薬用植物としても用いられてきたわけだが、米国のメディカルハーブの分野ではあまり取り入れられていない。これは米国のハーバリストが手本とするヨーロッパの植物療法においてレモングラスがほとんど用いられていないことによるもので、このハーブの効能の科学的根拠がうすいためではない。例えばレモングラスの精油成分でアルデヒドに分類されるシトラールは強力な抗菌力や抗真菌力を持ち、また胃腸の機能を高め駆風作用を有していることが報告されている。

シトラール(左)
シトロネラール

精油は細かく刻んだ葉から、香気成分が飛ぶ前に素早く水蒸気蒸溜法という抽出方法で精油が抽出される。この香り成分の70~80%を占めているのがシトラールだ。残りの成分にはゲラニオールとファルネソール、ネロール、シトロネロール、ミルセンなどいくつかのアルデヒド類とその他の香気成分が含まれている。その香りは人工のレモンフレーバーの材料に使用されるほど、レモンよりもレモンらしいといわれている。レモングラスが虫除けハーブと呼ばれることがあるが、これは主成分のシトラールではなく、シトロネロールの忌避作用によるものである。異性体が存在し、(+)-シトロネロールはシトロネラソウ (Cymbopogon nardus) に含まれるシトロネラ油(虫除けとして有名な精油)の50%を占める一般的な異性体である。(−)-シトロネロールはバラやペラルゴニウムの精油で見られる。ゲラニオールの水素化によって合成される。またシトラールを精製してさらに人工のすみれ香料で有名なイオノン(ionone) が製造されることもフレーバー屋さんならご存知のはず。

シトラールからイオノンへ

またレモングラスは農産物としての経済価値も高く、その葉身、葉鞘(しようしょう)および根は様々な用途で利用され、葉から作ったレモングラスティーは飲用としてだけでなく、中枢神経系の鎮静剤として使用され、葉鞘は料理の賦香用として利用される。
根はガムや歯磨き粉の材料として使われている。シトラールやシトロネロールの成分は香料、薬、 化粧品、抗菌剤、殺虫剤としても広く利用されている。さらに最近の研究報告では、主要成分のシトラールに血圧降下作用や血小板凝集抑作用のあることが明らかにされた。また2014年の研究論文で、星薬科大学塩田研究室(同大学先端生命科学研究所塩田清二特任教授で日本アロマセラピー学会理事)が、レモングラスの香りの認知症改善・予防効果を検証し話題になったことも記憶に新しい。
このレモングラスのシトラールはリフレッシュしたいときや集中力を高めたいときに有用だ。やる気を出したいときにもおすすめだ。仕事に疲れた時は、ぜひレモングラスをお風呂に入れて試してもらいたい。生が手に入らなくてもアロマオイルで十分だ。
風呂上がりにビール好きにはその名もずばり「レモングラス・ルアウ」なんてレモングラスを使ったハワイのコナビールなんていうのも、いいかも。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考図書
「魔女の薬草箱」西村佑子著 山と渓谷社
「基本ハーブの事典」北村佐久子著 東京堂出版
「ハーブ大全」 R.メイビー著 小学館
「メディカルハーブの辞典」林真一郎編集
ハーブの安全性ガイド Chris D. Meletis著」

「スパイスのサイエンス」武政三男著
「スパイス完全ガイド」山と渓谷社 
「漢方薬理学」 南山堂 高木敬次郎ら 監修
「ハーブ&スパイス大事典」National Geographic Partners, LLC
「アーユルヴェーダのハーブ医学―東西融合の薬草治療学」デイビッド フローリー
「新版 インドの生命科学 アーユルヴェーダ」上馬塲 和夫 (著)
「タイ料理大全: 家庭料理・地方料理・宮廷料理の調理技術から食材、食文化まで。本場のレシピ100」Vichian Leamted (原著)、味澤 ペンシー (著)
「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「新しい薬用植物栽培法―採収・生薬調製」佐竹元吉ほか著
「ハーブティーブレンドレッスン」ハーブティーブレンドマイスター協会編集
「The Green Pharmacy」 James A Duke著
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「Botanical Safety Handbook」 アメリカハーブ製品協会(AHPA)編集
「Fifty Plants that changed the course of History」 Bill Laws著
データベース

Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版 Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
米国国立医学図書館 PubMed®

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