このシリーズでは食や栄養の基本的な考え方や今話題の健康キーワードなどを通じて健康食品について考えていきたいと思います。さらには薬とサプリメントは何が違うのか?また栄養素と非栄養素、機能性成分がどうからだに作用するのか?といったお話もさせてもらえればと思っております。食品・医薬品業界に従事する方や健康食品にご興味のある方には、ちょっとしたウンチクとしてご一読ください。
機能性素材を考える 第6回
「機能性って何?体に良いってどういうこと? その1」
昨今ではトクホのみならず、機能性表示食品もTV等に登場する機会が増えましたね。そこで今回のテーマではこの機能性とは何かをサプリ成分の働きと合わせて考えてみましょう。
食品の役割と働きには3つの領域がある。
医薬品の分野では病気に効くことを「効能・効果」といいますね。でも食品の分野では体に良い食べ物に効能や効果という表現は法規上使えません。それは食品が健康に役に立つもので、治療に使うものではないからです。このことはこれまで数回にわたってお話ししてきました。
そこで、効能効果に代わる言葉として「機能性(functional)」という言葉が日本で生まれ、今では世界共通の言葉として使われています。背景を少しご紹介すると、1984年に旧文部省主導で「食品機能の系統的解析と展開」という研究がスタートし、食品の3つの機能(栄養、嗜好、生体調節機能)の概念が生まれました。
第一次機能(栄養面での働き)は、体を形作る、またエネルギー源としての役割のことです。つまりカロリー、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル等、必要な栄養素を補給して生命を維持する役割です。(不足すると欠乏症が発生し、長期に及べば死に至ります)
第二次機能(嗜好面での働き)は、美味しさを醸し出し、生きる喜びと幸せをもたらす機能のことで、色、味、香り、歯ごたえ、舌触りなど、食べた時に美味しいと感じさせる役割です。さらに美味しいことは心の満足、健康にも繋がります。
そして第三次機能(生体調節・生体防御面での働き)は、体の調子を整える機能のことで、免疫系、分泌系、神経系、循環系、消化系等の生体の生理機能を調整する役割です。特に食品成分のもつ三次機能を生体に対し十分に発現できるよう設計し、加工された食品を機能性食品としたのです。
機能性に特化した食品を消費者が正しく区別できるように。
機能性成分が注目されるにつれ、特に根拠もなく、体に良いと謳っている健康食品(いわゆる健康食品という)とは区別するために、国は食品業界と協力して、2000年に「保健機能食品制度」を作りました。
簡単に言えば「健康に役立つ」旨の表示(成分の機能や特別な用途の表示)ができる食品です。
制度がつくられた当初は、消費者庁が許可する、「特定保健用食品(トクホ)」、指定の栄養素20種類に限って必要摂取量が含まれていれば指定の機能性表示(こんな機能性があるよ、という表示)ができる「栄養機能食品」の2つの食品が創設されました。でもそれ以外の食品については、その機能について表示できなかったのです。
トマトに多く含まれるリコピンには「抗酸化作用がある」とか、青魚に多く含まれるEPA/DHAには「血液をさらさらにする作用がある」といった話をよく聞きます。でも当時の表示制度では、リコピンやDHAを使った健康食品においては、機能性を謳うことはできず、「あいまいな表現でわかりにくい」や「何にいいのか表記されていない」といった不満課題がありました。
そこで、特定保健用食品や栄養機能食品とは異なる、新しい食品の表示制度「機能性表示食品」制度が2015年に施行されました。私もこの制定には随分、骨子作りの段階から関わらせていただきました。
牛乳にはタンパク質やカルシウムなどの栄養素以外にも、ガゼイン由来のオリゴペプチドやラクトフェリンといった三次機能成分を含んでいます。これらの成分には、免疫増強、血圧降下、抗菌などの機能が報告されています。またゴマには、セサミノール、ゴマセサミンといった成分の脂質代謝改善の働きがわかっています。これらの機能について、企業の責任で消費者がわかりやすい根拠を示すことで機能性を明示できるようにしたものが機能性表示食品なのです。
個々の食品制度の詳細は長くなるのでまたの機会にお話しますが、これらの機能性に関する制度は食品や健康を語る上で、必ず出てくる定義なので、よく理解できていなかった方はぜひこの機会に覚えておいて欲しいです。
次回は、この機能性成分がなぜ体に良い機能を与えるのかを栄養素の働きと比較してみていきたいと思います。
(文責 クラウターハウス代表、国際栄養食品協会副理事長、健康食品産業協議会理事 橋口智親)
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