目次
アレジーやPMSの緩和のハーブオイル〜月見草オイル
イブニングプリムローズ(月見草) Evening primrose
イブニングプリムローズのオイルはγリノレン酸(GLA)が特徴で、PMSの緩和やアレルギー症状の緩和に有用です。
学名:Oenothera biennis (オエノテラ ビエンニス)
和名・別名:月見草、待宵草、メマツヨイグサ、オオマツヨイグサ
科名:アカバナ科
使用部位:葉部、種
植物分類と歴史
イブニングプリムローズはアカバナ科マツヨイグサ属に属する二年草で、「Evening primrose、夕方のサクラ草」という名の通り、夕方~宵のうちにかけて桜草に似た黄色の花を咲かせ、朝にはしぼんでしまいます。原産地は東部及び中央北部アメリカで、ニューファンドランドからテキサス、メキシコにかけて自生しています。日本には1850年頃に渡来したといわれていますが、日本の環境が栽培に適していなかったため、現在ではほとんど栽培されていません。
イブニングプリムローズの花と種(種は非常に小さい)
ところで、イブニングプリムローズはよく「月見草」とか「待宵草(マツヨイグサ)」と呼ばれることがあります。
厳密には、メマツヨイグサ≠イブニングプリムローズ≠月見草と微妙に異なります。マツヨイグサの仲間は、宵待草(よいまちぐさ)とか、月見草と言われたりします。「宵待草」は、竹久夢二が作詞のときにマツヨイグサと間違えたことが始まりとされ、訂正しようとしたそうですが、宵待草の方が、雰囲気があって良いということで、そのままにされたといわれています。 もう一つの「月見草」は、黄色い花を咲かせるマツヨイグサ属の数種を指す通称です。
マツヨイグサ属
マツヨイグサ(Oenothera stricta)はの仲間は河原や荒れ地などに生育する二年草で草丈は80cmほどになります。 日本へは江戸時代の末に入ってきましたが、近年は同属のメマツヨイグサに押されてあまり見なくなったということらしいです。
葉は披針形で互生、葉の中央脈は白色。 花期は6~8月、 花径4cm前後で、しぼむと橙色に変色します。種子は不規則な角柱状だが角は丸みがあります。非常に小さな種です。種小名の stricta は、strictus 直立の、硬いという意味があります。
オオマツヨイグサ(Oenothera erythrosepala)は、ヨーロッパで作り出された園芸品種で、径8cmほどの大きな花をつけます。
太宰治が「富嶽百景」の中で「富士には、月見草がよく似合ふ。」と書いているのは、このオオマツヨイグサかマツヨイグサではないかと見られています。高さは150cm位になる大型の二年草で葉は互生、葉身は長楕円形で、葉縁には疎らな鋸歯があります。花期は6~9月、花はしぼんでも変色せず、種子は角柱形です。
明治初期に日本に入りその後、野生化し、マツヨイグサ同様に見かけなくなりました。 種小名 erythrosepala は、erythro 赤い + sepala ガク片の という意味です。 イブニングプリムローズの親戚筋にあたり希少価値らしいです。
メマツヨイグサ(Oenothera biennis)は北アメリカ原産の二年草で日本へは明治後期に入り野生化しました。 道端や河原などで育ち、茎は直立し、草丈は130cm程度になるので、オオマツヨイグサより小型ですが目立ちます。葉は互生、披針形で浅い鋸歯があり、中央脈が赤くなる傾向があります。 花期は6~9月、 花径は2~5cm、夕方から咲き、花はしぼむと、黄色か僅かに赤変します。種子は角柱形です。
種小名 biennis は2年草の意味です。花弁に隙間のあるものを、アレチマツヨイグサ荒地待宵草(Oenothera parviflora L.)といいますが、隙間にはメマツヨイグサと連続した中間形もあり、別種とするかどうかも含めて、区別は難しいようです。 植物分類的には以上の3種がよく知られています。
イブニングプリムローズが薬用として利用されるのは、そのほとんどが種子で、マツヨイグサ、メマツヨイグサの種から採れます。このオイルが一般的に月見草油とかイブニングプリムローズオイルと呼ばれます。非常に小さな種子を低温で圧搾して月見草油が抽出されます。
月見草油には、γ-リノレン酸が豊富に含まれていることで有名なハーブです。γ-リノレン酸は母乳にも含まれている成分で最近では離乳食や粉ミルクにも配合されているほど免疫とも深く関与しています。また動脈硬化や高血圧の予防をはじめ様々な働きが期待できることから、月見草油は健康食品としても有名です。
イブニングプリムローズの歴史
歴史は古く、アメリカの原住民であるネイティブ・アメリカンに利用されてきました。
ネイティブ・アメリカンはイブニングプリムローズを刈り集めると、葉から茎、花や種までも丸ごとすり潰して傷口に塗ったり、デキモノの治療に利用していたようです。また咳を鎮めたり、痛み止めの内服薬としても利用されていました。このほかに植物の様々な部分が食用となり、若い根は酢漬けにしたり煮たりして食欲増進のために用いていました。彼らは食料として葉や茎をゆでて食べたり、根を乾燥させ保存食としました。
新大陸発見後、イギリスに伝えられ「王様の万能薬」として珍重され、瞬く間にヨーロッパ全土に広がっていきました。
しかし、薬用植物として定着していたイブニングプリムローズも20世紀に入ると他の薬用植物と同様、化学的に合成された薬品の登場によって、あまり利用されなくなります。再び脚光を浴びるようになったのは、1930年代に人体の組織内にほんの微量存在する生理活性物質であるプロスタグランジン(PG)が発見されたことによります。
研究が進むとともに、その材料となるγ-リノレン酸が注目されはじめ、天然に存在するγ-リノレン酸がイブニングプリムローズに多く含まれていることが報告されました。その後、様々な研究を経て健康に対する効果が明らかとなり、サプリメントをはじめとした健康食品や化粧品として利用されるようになっていくのです。そのほか伝承的な利用法としては、根、葉、茎を蜂蜜で煮て作る咳止めシロップや打ち身改善のための湿布などがあります。
前述の通り、北アメリカあたりが原産で明治の少し前に渡来し観賞草花として栽培されてきましたが、性質の強い「待宵草」は野生化して生き残り、性質の弱い「月見草」は、昭和の初期には、ほとんど姿を消してしまい、学術書などでも、「幻の花といわれています」とか、「現在では、一部の植物園に残っているだけ」とか「植物園や研究者の間で保存されている場合もあるかもしれない」という現状になってしまったようです。
最も信用のある「牧野富太郎植物記」(昭和48年刊)や「原色牧野植物大図鑑」(昭和57年刊)にも「今日ではほとんど見られない」と書かれています。日本から姿を消した「月見草」は「つきみそう」という名前だけは人々の心に残り、やがて「待宵草」を「月見草」とよぶようになったそうです。
成分ほか
学術データ(食経験/機能性)
イブニングプリムローズの機能性
イブニングプリムローズは何と言っても希少価値の高いγリノレン酸(GLA)が特徴です。脂肪酸組成は、
リノール酸(不飽和脂肪酸類):70%
γ-リノレン酸(不飽和脂肪酸類):10.5%
オレイン酸(不飽和脂肪酸類):8.5%
パルミチン酸(飽和脂肪酸類):6.3%
ステアリン酸(飽和脂肪酸類):1.8%
α-リノレン酸(不飽和脂肪酸類):0.2%
となっています。
γリノレン酸は生体、特に皮膚の健康に必要な成分ですが、体内合成ができないため、食物等や母乳から摂取する必要があります。このオイルは皮膚炎、湿疹に有効ですが、ひどくなる前あるいは幼少の頃の気長な摂取(3~4ヶ月以上)がより効果的で、即効性を持つものではありません。
近年、小児性皮膚疾患(湿疹)や様々なアレルギー症状が以前に比べ増えているといわれますが、これは授乳量の減少から起こるγ-リノレン酸供給量の低下や食物からの摂取量の低下、良質の不飽和脂肪酸の不足が原因と考えられています。
種子中にはその他に血液凝固阻害物質が含まれています。このγ-リノレン酸から作られるジ・ホモ-γ-リノレン酸はプロスタグランジン(PG)というホルモン様の生理活性物質の原料になります。(アラキドン酸カスケードといいます)
PGが少なくなると、ホルモンバランスの乱れや子宮内膜が正常に機能しないなど、さまざまな障害が起きてきます。月経の前になるとイライラしたり、頭が痛くなるなど不快な症状を感じるPMS(月経前症候群)もPGがきちんと機能していないために起こると考えられており、実際にγ-リノレン酸を補給すると症状が緩和することも明らかになっています。
またアトピー性皮膚炎についても同様で、γ-リノレン酸由来のPGがうまく働かず、炎症物質の過剰生成が起こり、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなります。さらにγ-リノレン酸は皮膚の表皮細胞に必要な成分で、不足すると水分の調節異常が起こり、乾燥を引き起こしてしまいます。
これも症状を悪化させる一因になります。γ-リノレン酸がアトピー性皮膚炎に効果があるということも、臨床試験で明らかになっています。
アトピー性皮膚炎と脂肪酸
アトピー性皮膚炎の患者はγ-リノレン酸の摂取量が少ない、または何らかの原因でデルタ6脱飽和酵素の活性が低下していると考えられます。
デルタ6脱飽和酵素が正常に働くためには、亜鉛だけでなく、ビタミンB6とマグネシウムが必要になりますが、これらが不足しているために脱飽和酵素が低下している場合は、これらをサプリメントなどで補えば症状の多くは改善します。
一方、直接γ-リノレン酸が不足している場合に、イブニングプリムローズオイル、ボラジオイル、黒スグリオイルなどの摂取が効果的なケースは多いようです。そのほかの関連性として以下があげられます。
*生活習慣病の予防・改善効果
γ-リノレン酸からつくられるPG E1には血糖値やコレステロール値、血圧を下げる効果があります。血糖値やコレステロール値の上昇は動脈硬化や高血圧などを招くため、γ-リノレン酸の摂取は生活習慣病の予防や改善に効果があると期待されています。また、γ-リノレン酸を継続して摂取することで中性脂肪の上昇が抑えられ、善玉(HDL)コレステロール値の低下を防ぐ働きがあることが報告されています。
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17938547)
*美肌効果
γ-リノレン酸には、皮膚細胞の防御機能を増大させて保護膜のように皮膚を守る効果が報告されています。またリノール酸も豊富に含まれていることから保湿作用に優れており、美肌に対する効果が期待されています。乾燥によって角質がうろこ状に荒れてしまったような症状の改善にも有効的だという報告もあります。
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18492193)
(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)
参考文献(書籍)
「ハーブの歴史」ゲイリー・アレン著
「アメリカ・インディアンの心もからだもきれいになる教え」Eriko Rowe著
「グランドファーザーが教えてくれたこと」Tom Brown,Jr著
「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編
「Botanical Safety Handbook」 アメリカハーブ製品協会(AHPA)編
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「The Green Pharmacy」 James A Duke著
データベース・公文書等
NIH National Library of Medicine’s MedlinePlus
Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版 Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
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