野菜?漢方薬?日本の医食同源食材〜バードック(ごぼう)

バードック〜食物繊維を豊富に含む根野菜として数千年の歴史をもつ医食同源の健康食材

バードック Burdock
海外ではほぼ漢方・自然薬であるゴボウだが、日本では古くから食物繊維を豊富に含む根野菜として利用されてきました。

学名:Arctium lappa
和名・別名:ごぼう〔牛蒡〕
科名:キク科
使用部位:根部


植物分類と歴史

ゴボウ(牛葵)は私たちに最もなじみ深い野菜であり、野菜売り場では年中見ることができる。しかし私たちが目にするのは食用とする根の部分で、葉や花を見る機会は少ないのではないだろうか。そして根を食用とするのはわが国特有の食習慣といわれ、外国では食用というよりは薬用植物・漢方材料としてのイメージが強く、食材というイメージはないかもしれない。

ゴボウはキキョウ目キク科ゴボウ属の2年草で、アザミ、オケラ、コウヤボウキに近いとされ、これらと花がよく似ている。寒さに強く、水はけの良い土地を好み、中国東北部からシベリア、北欧にかけての広い範囲が原産地だ。日本には野生種は自生していないがヨーロッパとアジアに広く分布している。植物は長い年月の間に分化して様々な品種ができるものだが、ゴボウは日本に渡来してから長い栽培の歴史にもかかわらず品種が多くない。分類学の父と称されるリンネは、ゴボウの学名にArctium Lappaをあてた。属名のArctiumは熊の意味でギリシャ語のarktos〔熊〕に由来する。これは花と子房を覆う総庖の先端に鋭い鉤状になっているとげをもつことによる。また種小名のLappaとはケルト語で手を意味し、実が衣服などによく付くことからlappare〔つかむこと〕に由来する。ちなみに英語のburdockの由来はburが植物の〔イガ〕のことでdockはもともとタデ科ギシギシ属の植物の事だが、葉の形がゴボウとギシギシが似ていることからdockとなったのではないかと思われる。また和名の牛蒡(ごぼう)は漢語の牛蒡の音読みが語源と言われ、蒡は丸い葉が両側に広がる菜の意味で、牛は草木の大きなものに冠される漢字である。

ところで、子どもの頃に同じキク科のオナモミの実を投げて、ズボンや靴下にくっつけて遊んだ経験を持つ人も多いと思うが、ヨーロッパの子どもはゴボウの大きな実を投げて遊ぶそうだ。ゴボウは高さ1〜l.5mになる二年草植物で、大きな根生葉(こんせいよう:根葉(こんよう)とも言う、地上茎の基部についた葉のことで、地中の根から葉が生じているように見える)をもち、葉の表面にはしわがあり、裏面には白い毛を有している。夏に直径4cmぐらいの頭花をつけ、総庖は球形で、イガ状の細いとげが広がり先端が鉤状、小花は両性で管状花のみからなる。

ごぼう
ゴボウの根生葉(左)と花(右)

多くの栽培品種があり、中には白花のものもある。原産地はヨーロッパから中国にかけての地域で古くから薬草として利用されてきた。しかし、前述のように食材の根菜とするのは日本固有に発展した食文化と考えられ、一部台湾、輯国において食用とされるのは、日本統治下のときのなごりだと思われる。ただしゴボウに似た野菜が利用されている。日本で「西洋白ゴボウ」の名がある、サルシファイ(salsify)、別名ハラモンジンである。
ごぼう
西洋白ゴボウ
ごぼう
西洋黒コボウ

二年草で根を食用にするために栽培される。紫色の花を持つ。野生型は地中海地域に分布し、いまではヨーロッパ中に広く帰化している。これとは対照的に「西洋黒コボウ」と呼ばれる「キクゴボウ」がある。英名はblack salsify、Spanish salsify、black oyster plant などと呼ばれる。ドイツでも冬の定番根菜として食される。ドイツ語ではSchwarzwurzel(シュヴァルツヴルツェル)、その名も「黒い根っこ」だ。キクゴボウは日本ではフタナミソウ属と呼ぶ。この属には野生種が170種ほどあって、中には限られた地域で食用や薬用とされるものも少なくない。キクゴボウの一種で、根から砂糖菓子をつくることで知られているのは、スコルゾネラ・デリキオサ(Scorzonera deliciosa DC)である。食用ではないが、第二次世界大戦中にゴムの製造に利用されたカウチュック(成分名)は、中央アジアに産するこの属のスコルゾネラ・タウサギツから抽出された。その他ハーブやスバイスとして利用するキク科植物も多い。キク科植物は植物学の研究対象としてだけでなく、私たちにとって大事な食物資源の宝庫といえるのに、食材に利用されているのはほんの一部だけである。根菜として一般に広まったのは江戸時代の頃とされ、代表的な品種には、直径2〜3cmで長さlmほどになる「滝野川ゴボウ」と現在の東京都立川市砂川町付近が発祥とされる「砂川ゴボウ」があり、江戸のゴボウの代表的品種である。京都では直径6〜8cm、長さ50cmほどで先がタコの足のように枝分かれし、中に空洞ができる「堀川ゴボウ(独特な栽培方法で太く、短い)」(写真)が知られ、この空洞に詰め物をして用いられる。


堀川ゴボウ
ごぼう
越前白茎ゴボウ

また、若い葉の葉柄と小さな根を食べる葉ゴボウ(関東にはほとんど出回らない。葉には「ルチン」がたっぷり16-20mg含まれる)では、香川県や福井県で食べられている「越前白茎ゴボウ」(写真)などが代表的な品種として知られる。
ごぼうの代名詞の滝野川ゴボウ。しなるようなやわらかさをもつ江戸東京野菜の一つだ。栽培が始まったのは元禄年間(1688~1704)のことで、水はけがよい黒土に覆われた滝野川村(現在の北区滝野川)周辺は、ゴボウの栽培に適していた。この村に住む鈴木源吾により品種改良と採種が行われ、豊かな土の香りと食味のよさから全国に広まった優良品種である。国内で栽培されるゴボウの9割以上は、滝野川ゴボウの系統といわれており、練馬区で栽培されている「中ノ宮ゴボウ」や「渡辺早生ゴボウ」も、夏に収穫期を迎えるように滝野川ゴボウから改良されたものだ。
それ以外に「山ゴボウ」と呼ばれる種がある。これはよく山ゴボウと称して味噌漬けなどが売られているが、これは実際にはアザミ属のモリアザミ(Cirsium dipsacolepis)などがほとんどである。本当のヤマゴボウは根に硝酸カリを含んでいて有毒なので要注意だ。


●バードック(ゴボウ)の歴史

ハーブとしての歴史は古く、古代ローマのディオスコリデスの薬物書「マテリア・メディカ」(紀元512)の中に見られる。ハーブ療法や民間薬として主に根が用いられるが、ときに葉や果実も使われる。また近世のハーバリストのニコラス・カルペパーの本草書「The English Physitian」 (1652年)では、「つぶして塩を混ぜ、犬に噛まれた際に利用する。また、ガスによる腹部の膨張に対してや、歯痛の際の鎮痛剤として、背中を強化するためなどに、内服薬として有効。」と記している。

カルペッパー
ニコラス・カルペパーの『The English Physitian』

近世以降、ヨーロッパでは「身体の不健康な状態を通常の状態に戻す性質」があるとされ、重要なメディカルハーブと位置づけられ、主に湿疹や腫れもの、ニキビ、じん麻疹など皮膚トラブルや 痛風などの代謝によるトラブルに対して、体内から毒素を取り除くことによる血液浄化を意図して使われてきた歴史を持つ。

日本での食用の歴史は長く、青森県の三内丸山遺跡や福井県の鳥浜貝塚でゴボウの果実が出土していることから、おそらく縄文時代から食用に用いていたものと思われる。縄文時代の貝塚から、ごぼうの種が発見されている。
薬用として中国から伝来したのは平安時代といわれ、日本最古の本草書である『本草和名(ほんぞうわみょう)918年』「岐多岐須(きたきす)」の名で登場する。岐多岐須のほかに、「宇末布布岐(うまふぶき)」の名もみられるが、その後中国名の「牛萎」にとって代わった。この後200年の間に食用として広まって、アザミ(当時、根や葉が食用にされていた)に取って代わっていく。『和名抄(倭名類聚抄923~930)』に面白い記述がある。「牛蒡。本草に言う悪実(アクジツ)は一名牛蒡。和名、岐太岐須(キタキス)。一に言う宇末不々木(ウマフフキ)。今案ずるに俗に房となすは非也」 (ゴボウ。薬草の悪実はゴボウの事。和名はキタキス。ウマフフキとも言う。牛房と書くのは間違い。)悪実はゴボウの種子で、解毒、浮腫、咽頭痛の漢方薬だ。つまり「中国でゴボウと呼ばれるものは日本のキタキス、ウマフフキである」と言う記述ということになる。

平安時代後期には、重要野菜として記録が残されている。『延喜式』の内膳司(うちのかしわでのつかさと読む。日本の律令官制において宮内省に属した機関で、天皇の食膳の調理をつかさどった官司のこと)の朝廷の菜園の栽培リストにはアザミはあるがゴボウはない。その後、『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)(1146) 』( 恒例・臨時の儀式、行事における調度について、指図(見取り図)によって詳しく記したもの。1146年(久安2)ごろにできあがり、四巻からなるが、作者は不明。)には、ゴボウが朝廷の献立に用いられた記録がある。また、18世紀後半に出版されたとされる「備荒草木図(びこうそうもくず)*」には「野山に自生するものは、葉をゆでて食べると良い」と記されている。ゴボウのしゃきしゃきとした食感と香りが日本人に好まれ、健康にもよい野菜として定着していった。江戸時代の農書『田法記』には、「牛蒡こそ田畑一の作りもの銀に積もりて並ぶものなし」とも記され、価値の高い野菜だったことが伺える。
ごぼう
備荒草木図での牛蒡
*備荒草木図:宝暦5年(1755)、奥羽地方を中心に大飢饉が起こる。その惨状を目の当たりにした一関藩の藩医・建部清庵(1712~82)は、飢饉への対策や準備について記した救荒書「民間備荒録」を著し、それを藩に献上する。清庵はその後、救荒用の草木の図譜「備荒草木図」の草稿を作成する。それには、スミレ、キキョウ、ヘチマ、クヌギの他、食用可能な草木数百種の図を載せ、それぞれの調理法を記した実用性に富むものだった。


学術データ(食経験/機能性)

ゴボウの旬は晩秋~初春とされているが、若採りされた新ごぼうの場合は初夏。しっかりと成長しているごぼうは硬めの食感なのに対して、新ごぼうは柔らかく瑞々しい食感があることが特徴だ。風味も新ごぼうのほうが柔らかい印象がある。東日本は細長い形状のもの、西日本は太く短い形状のものが好まれると東西の違いもある。そのほか関西を中心に“葉ごぼう(若ごぼう)”と呼ばれる品種も使われており名前の通り根というよりも葉・茎がメインに食されている。小ぶりな根部は香りが弱く柔らかい食感、葉部はフキに似た印象だ。
きんぴらごぼう、八幡巻、鶏ごぼう、たたきごぼう・・・・牛蒡を使った料理はたくさんあるが、こういったごぼう料理を食べるのは日本人だけだというのも意外と知らない人も多い。欧米では「日本人は木の根っこを食べる」という理由で驚く。それどころか、牧場などでは一度はびこると退治に困る厄介者として、大いなる嫌われ者の雑草とされているといったほうがよい。ただヨーロッパの一部の地域では、タンポポの若葉やオオバコの仲間の若葉をサラダにして食べるが、ゴボウの若葉も食べる地域もあるようだ。根はバードックルートと呼ばれ、メディカルハーブとしてティーで飲むが、根自体は食べない。原産地の中国やヨーロッパでは、あくまで野生のものを利用するのに対し、日本では栽培し作物として扱ってきた。ゴボウ独特のえぐみや香りが外国人には受け入れがたいようだ。日本向けにゴボウを輸出している中国の山東省でも、栽培しているのにもかかわらず、ゴボウ自体を食べる習慣はないようだ。また有名な話だが、第二次世界大戦中には捕虜になったアメリカ人が食事として出されたゴボウを「木の根っこ」を食べさせられたと訴えた事件まである。その後の裁判では当時の収容所の責任者が木の根っこを食べさせた捕虜虐待の罪で有罪判決を受けたというから驚きだ。

日本では、歴史のところでもお話しした通り、渡来以前から種子を薬として使うよりも根を野菜として食べていた。海外では漢方薬や自然薬として利用されてきたゴボウがどうして日本では食材になったのか?
ゴボウは縄文時代草創期から現在までの長い食経験の中で、薬用、野菜、料理、献上品、贈答品、栽培法、加工といった分野で日本の各地に固有の品種や調理法が生まれて、和食に欠かせない食材になった。それは祭りや儀礼での神饌に求め、また稲作以前の農耕文化と深く関わりがあるようだ。今日、我々にはごく身近な作物であるゴボウは、実に長い歳月の間に、少しずつ食文化として形作られていったのだ。一例でいうと、ゴボウを使ったお惣菜としても人気が高い「きんぴらごぼう」。この「きんぴら」、実は金太郎の息子である坂田金平の名前を取ったものだといわれている。江戸時代に人気のあった浄瑠璃の主人公である坂田金平は金太郎で有名な坂田金時の息子で、彼もまた父親ゆずりの豪傑だった。金平が主人公の浄瑠璃には悪者や化け物を退治していくものが多く、当時の江戸ではすごい人気だったという。


坂田金平(国際日本文化研究センター)

そんなことから金平という名前が強さの代名詞として使われるようになり、いろいろな商品の名前に使われるようになった。そして当時人気のあった惣菜である「きんぴらごぼう」も、赤くて辛くて固いことから「きんぴらごぼう」と名がついた。(しかし、あくまで坂田金平は浄瑠璃に登場する人物であって実在はしていない。)

前述の通り、平安時代後期には宮廷料理に利用されたという記載も残っているが、一般に広く食べられるようになったのは江戸時代以降と考えられている。寛永20年(1643年)に刊行された、我が国初の実用レシピ集である『料理物語』には、ごぼうの調理法として「汁。あへもの。に物。もち。かうの物(香の物)。茶ぐはし(茶菓子)。其外いろゝ。」とある。汁物、和え物、煮物、香の物は現在も一般的な調理法だが、餅や茶菓子としても食べられていたとは驚きだ。

日本人の食の叡智には目を見張るものがある。世界的にはマイナーな野菜「ゴボウ」だが、食物繊維が非常に多く含まれており、便秘やむくみ、血液浄化などにも効果がある。発ガン性物質を排出する機能も知られ、大腸ガンの予防にも良いことがわかっている。昭和中期ころからゴボウは繊維ばかりで栄養価がないと言われたことや食の欧米化の影響で食卓への登場も減っていた時期もある。しかし食物繊維やポリフェノールを豊富に含むことから再注目され、女性を中心に美容効果の高いヘルシー食材として再評価されてきている。古くからゴボウを食べると精がつくと言われているように、ゴボウにはアルギニンが含まれており、これは栄養ドリンクなどにも含まれている。少しずつではあるが、これらの効能が世界的に認知されつつあり、また日本食ブームも相まって、近年では他の国でも食べられるようになってきた。
ごぼう

香りやうまみは皮の部分に多いのだが、皮の部分には空気に触れると黒くなるクロロゲン酸などの成分が含まれている。白くてきれいに加工したごぼうもいいが、おいしく食べるには土付きごぼうを購入して手間を惜しまずに下ごしらえしたい。以前は、牛蒡の下ごしらえと言えば“アク抜き”が常識だったのですが、酸化成分としてよく知られるクロロゲン酸を皮部に多く含んでいることもあり、今は以下のように下ごしらえの仕方も変わってきたようだ。

①皮をむかずに泥を洗い落とすか、軽く削ぐ程度に留める
②水や酢水にさらさない
③大きめに切る

……方が身体に良いとされている。
これは、せっかくの牛蒡の味や香りや栄養素が水に溶けて流れてしまうからで、品種改良された現在の牛蒡はアクが少なくなっており、そのまま調理に使えるものが多いからだ。特に煮物の場合は、煮ている時に浮いてくるアクを丁寧にすくってやればよく、肉や魚と一緒に煮る時はむしろ、牛蒡のアクが臭み消しの役目も果たしてくれる。ただし人によっては、牛蒡の酸化やアクによるアレルギー反応が出ないとも限らないので、心配な方はできるだけ火を入れる直前に牛蒡を切るようにするか、酢水にサッと漬けて水気を切っておくと、抗酸化成分を保つことができる。

●ゴボウの薬理作用

日本の医薬品を記した日本薬局方にも「牛蒡子(ゴボウシ)」として収載されている。薬用としての文献としては、『名医別録』(220〜450年の成立)という書物に初めて記述が現れる。その根と茎は「傷寒、寒熱、汗出、中風、面腫、削渇、熱中を治し、水腫を排除する」と書かれた。また、多くの漢方関連の文献でその効能が書かれている。
東洋ではアーユルヴェーダ医学や中医学での利用がよく知られている。中国では果実を牛菩子といい、別名悪実とも呼ばれます。『本草綱目』には「その実の状悪く、刺鈎が多い」と記され、総庖のイガについては東西諸国で厄介者とされてきたことをうかがわせる。『中薬大辞典』の中には民間薬として「牛努根を顔面の浮腫、めまい、喉の腫れたときに、牛葵の茎薬を煩悶、切り傷急性乳腺炎などに用いる」とある。

漢方で牛努子は弱い発汗作用による解熱と解甜作用をもつ薬物に分類されており.小児の腺病質体質に使われる「柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)」、耳下腺などに用いられる「駆風解毒散(くふうげどくさん)」、痒みの強い湿疹・皮膚炎や葬麻疹で処方される「消風散(しょうふうさん)」などに配合が見られる。日本では牛萎子は食薬区分上、医薬品に分類されているため、ハーブティーなどの利用目的で流通させることはできない。近年は健康意識の高まりで、根を乾燥させて手軽に飲用できるごぼう茶が人気だ。
民間薬としては、発熱、胆石、膀麟石、痛風、リウマチ痛や皮膚炎に、果実は糖尿病、おたふくかぜや発熱に用いられてきたが、近年ではより効果を高めるためにもっぱらバードックエキス(ゴボウエキス)としてサプリ原料などでも使われている。このバードックエキスは食物繊維が豊富で、整腸の目的で健康食品として利用され、また保湿性や窮蔽性が高いことから、フケ・脱毛予防、発汗.血行促進効果を目的に皮膚コンデイショニング剤として用いられている。そのほかバードックエキスに、マウスの肝障害の抑制作用、ラットの肝癌抑制作用、マウスのエールリッヒ腹水癌の抑制、アロキサン誘発糖尿病ラットで弱い血糖降下作用などが報告されている。また漢方の牛蒡子の成分には、リグナン誘導体のアルクチゲニン、アルクテイン、ラパオールA-Eなどを含有します。アルクテイン(Arctin)から糖がはずれた非糖質のアルクチゲニンにマウスの記憶改善作用が認められている。

アルクテイン(キク科植物に含まれるリグナンの一種、アルクチゲニンの配糖体)

欧米での自然療法においては、バードッグには、循環器系、呼吸器系、尿路系の働きを助け、リンパ系のうっ血を取り除き老廃物を排出させ、それぞれの器官の機能が正常に働くよう活力を与えることから「トニックハーブ」と呼ばれ、フランスなどの伝統療法の根拠となっている。またバードックの抽出液は、抗バクテリア・抗真菌に対する有効な成分があるので、感染による泌尿器・生殖器系トラブルの利尿剤として用いられてきた。外用法としてドイツではバードックとネトル抽出液をローションにして頭部にマッサージし、育毛の目的で用いる方法が知られている。

●チョウセンアサガオによる食中毒について

ところで、江戸の幕末に近い弘化3年(1846年)、牛蒡はあるスキャンダルに見舞われる。「牛蒡には毒があり、食べると死ぬ」という噂が広まり、牛蒡人気が急降下することになった。現代も時々起こる事故だが、これはおそらく牛蒡と間違えて、チョウセンアサガオの根を食べてしまったことによる冤罪ではなかったかと思われる。もちろん、この噂は数カ月で消え、その後は食物繊維が豊富な野菜として、牛蒡人気は継続されてゆくのだが。
かつて平成18年4月、岡山県内で「きんぴらごぼう」を食べた人が食中毒症状を訴え、入院した事件があった。県保健所が調査したところ、「ごぼう」と間違え「チョウセンアサガオの根」を食べたことが原因だった。食べ残しの「きんぴらごぼう」を分析したところ有害成分(アトロピン及びスコポラミン)を検出し、チョウセンアサガオによる食中毒と判明。チョウセンアサガオは、6から9月にかけて開花するナス科の有毒植物だ。帰化植物として野生化している他、花が美しいこともあって家庭で栽培されることもある。その反面、全草に強い毒(アトロピン、スコポラミン等のアルカロイド)を有する。これによって (1)瞳孔散大 (2)口渇 (3)心拍促進など典型的な副交換神経抑制作用をによる症状を呈する。有毒成分は全草に分布するが、種子に最も多く含まれている。ただしキンピラゴボウなどの形で多量に喫食した場合は、他の部位でも充分重症となる可能性があるので、くれぐれも間違えないようにしたいものだ。

●ゴボウの機能性

さて話を機能性にもどすが、成分にはリン、カルシウム、マグネシウム、カリウム、精油成分、フラボノイド、クロロゲン酸、セルロース、リグニン、イヌリン、アルカロイド、ポチアセチレン、アルクチゲニンなどが知られる。中でも水溶性食物繊維のイヌリンを豊富に含むことから整腸作用やコレステロールの排出作用をもつことがよく知られている。

イヌリンは自然界においてさまざまな植物によって作られる多糖類の一群である。炭水化物の一種、果糖の重合体(フルクタン)の一種であり、同類の植物による貯蔵栄養素であるデンプンと異なりヒトの消化器では分解不能で大腸の腸内細菌叢によってはじめて代謝されるため、栄養成分表示では糖質ではなく食物繊維として扱われる。キク科の植物は肥大した根や地下茎、それに由来する塊茎などに栄養源を貯蔵するための手段として利用している。
イヌリンを合成・貯蔵する植物は、多くの場合デンプンのような他の物質を貯蔵することはない。イヌリンの名称はキク科オグルマ属の植物 (Inula) から抽出されたことに由来する。またイヌリンは栄養上の性質に優れることから、食品に使用されることが増えてきている。薄味のものから甘めのものまで広範に使用されており、砂糖や脂肪、小麦粉の代わりに用いられることもある。これはイヌリンが砂糖や他の炭水化物と比較して3分の1から4分の1程度のエネルギーしか含まず、脂肪と比べて6分の1から9分の1程度のエネルギーしか含まない。さらに、カルシウムの吸収を促進し、おそらくはマグネシウムの吸収も促進する。また腸におけるバクテリアの活動を増進させる。等々の機能性からと考えられる。
栄養学的には水溶性食物繊維の一種として扱われ、多量に摂取すると(特に、過敏な人あるいは不慣れな人にとっては)腹部膨満を来す可能性があることに注意が必要とされる。血糖に直接的に作用することはないが、食後の血糖濃度上昇を抑制することに加え、腸内細菌による代謝産物がインスリン感受性を向上させることにより、糖尿病患者の血糖値を適切な水準に調節することが報告されている。そのため、血糖値異常に起因する疾病に対しての有効な食事療法の手段として期待される。
しかし日本人には馴染み深いごぼうだが、生産状況は減少傾向にあるそうだ。農畜産業振興機構(alic)の平成30年1月29日付けの調査によると、平成28年の出荷量は11万8000トンと、前年に比べて1万3000トン減少している。出荷量の減少は平成24年の14万6000トンからほぼ毎年続いているそうだ。せっかくの伝統食なので、うまく食材として活用してほしいと願うばかりだ。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考文献(書籍)
「プリニウス博物誌(植物篇)」大槻真一郎 編集
「デイオスコリデスの薬物誌」大槻真一郎 編集
「薬用ハーブの宝箱」マリア・トレーベン著
「修道院の薬草箱」フレグランスジャーナル社

「サラダ野菜の植物史」大場 秀章著
「ごぼう」(冨岡典子、法政大学出版局)
「日本薬草全書」田中俊弘著 新日本法規
「漢方薬理学」 南山堂 高木敬次郎ら 監修
「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編
「The English Physician」Nicholas Culpeper著
「Botanical Safety Handbook 2nd edition」アメリカハーブ製品協会(AHPA)編
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「The Green Pharmacy」 James A Duke著

「The Complete German Commission E Monograph, Therapeutic Guide to Herbal. Medicines,1998 」American Botanical Council(ABC)

データベース・公文書等
NIH National Library of Medicine’s MedlinePlus Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版
「BG Plants和名一学名インデックス」(YList)
Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳

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