このシリーズでは食や栄養の基本的な考え方や今話題の健康キーワードなどを通じて健康食品について考えていきたいと思います。さらには薬とサプリメントは何が違うのか?また栄養素と非栄養素、機能性成分がどうからだに作用するのか?といったお話もさせてもらえればと思っております。食品・医薬品業界に従事する方や健康食品にご興味のある方には、ちょっとしたウンチクとしてご一読ください。
目次
機能性素材を考える第2回
「日本人はなぜ健康食品が好きなのか?その2」
前回の第一回目は、日本人の健康食品に対する意識調査の紹介を通じて、病気の質が変わってきたこと、それに伴い、病気と健康維持に対する考え方が変わってきたことなど、ご紹介しましたが、今回は、時代と共に健康情報などの取り巻く環境が変化してきていてそれの伴う消費者の捉え方も変わって来ている現状について触れてみたいと思います。
自分で調べて納得して購入する時代へ
前回もご紹介した、昨年の民間調査会社の報告では、健康食品購入の情報について「ランキングや口コミ情報」が 24%、「利用者●万人突破」「有名人が利用」 「利用者の●%が効果を実感」といったような利用実績をPRする広告が10%で、特に⼥性はクチコミを参考にしているケースが多い。と言う調査報告があります。
しかし消費者庁始め、監督官庁はこういった個人の実感を伴う体感訴求を厳しく取り締まっています。
一方、口コミよりもインターネットを活⽤して自ら情報検索を⾏い、自身が納得したものを自分で選んで購入するという方も増えてきました。
健康食品の販売形態も、かつてのような、こうしないとダメとか、あれはよくない、これは危ないなどといったフードファディズム*のような恐怖感を与える訴求法ではなく、消費者が現状のままでできる無理のない生活改善をアドバイスするヘルスアドバイザーのようなセールスが求められるようになってきた気がします。そのためには、自社製品さえ摂取していれば大丈夫かのような訴求ではなく、自社製品を摂りつつも、いかに食材豊かな食生活ができるかを伝えることが大切になってきています。
病気とうまく付き合う時代
超高齢化社会になり、サルコペニア*のように生活習慣や環境などによる、心身の生活機能の低下は薬では治せません。認知症もしかり。食品、栄養で予防するしかない。適切な栄養摂取、特に1日1kgあたり1.0g以上のタンパク質摂取はサルコペニアの発症予防に有効であるという報告もあり、ますます食生活の改善が重要なテーマになってきました。さらに超高齢化が進み、新しい高齢者の定義に関する提言が出されて本格的な議論が始まりました。つまり、現状は65歳以上を高齢者とみなすが、国の新たな提言では、75歳以上を高齢者と定義すべきと、若返りが起きています。いずれ年金などの社会保障制度も民間保険も、75歳以上を高齢者と認識する時代が来るのでしょう。長生き世代が増えるということは、「病気にならない」ではなく、いかに「入院しない」ようにして、未病(予備軍)の状態を維持し、何事もなく過ごすか、認知症、ロコモティブシンドローム*や生活習慣病などのリスクはあっても、なんとか生活できているといった社会になっていくのかもしれません。それには、一人一人が日々の生活を考えて賢く生きていくことが求められるようになるのでしょう。国は医療費の削減に必死です。国家予算の3分の1が医療費(約42兆円)という、とんでもない国なのです。だから寝たきりになってもらっても困るわけです。未病でもいいから普通に生活して欲しいのです。
例えば、サプリメントを摂取する人は、必ず何らかの目的を持って購入しています。
目的を持たない人間はサプリメントを続けようと思いません。そういう人は新しい商品が出るとすぐそちらに乗り換えてしまいます。でも同じサプリメントを長く摂り続けている人は、やはりそのサプリメントに何らかの目的を見出しているのです。 例えば家族がいつも使っているとか、定期的に商品を購入できるとか、あるいは紹介してくれた人がいろんな事を教えてくれるといった付加価値だったり。意外とそのサプリメントを続ける理由には、製品そのものの性能ばかりではない場合も多いのです。まさしくそこが日本でのサプリメントが売れる理由の1つではないでしょうか。
海外ではなかなかそういった付加価値が購買行動意欲を刺激するという事はあまりないような気がします。
必要な食材を食べない弊害とは
昨今はユーザーの意識だけではなく、取り巻く環境も、背景も変わってきました。
ビタミンやミネラルは野菜や果物からしか摂れないと思っている人も多いようです。実際に手軽に摂取できる方法として野菜や果物は有効です。ただしご存知の方も多いと思いますが、最近の野菜はビタミンやミネラルが非常に少なくなっています。またそれ以外にも農法の違いにより、肥料の与えすぎや残留農薬の問題、硝酸塩の過剰、加工品の食品添加物の多さ、などなど世の中で危惧されていることも増えてきています。 だから野菜をとってもあまり意味がないとか、有害なものが増えているから注意が必要だとか、騒ぐ人も多いようです。
でも、それ以上に心配なのは、余計な心配ばかりして必要な食材を食べないことによる弊害の方です。
一時期、糖質制限とか糖質ダイエットなどが騒がれた時期がありました。しかし最近少し落ち着き始めています。なぜなら多くの医師が糖質ダイエットに対する危惧を言い始めたからです。確かに糖尿病の人、肥満症の人にとって糖質制限あるいは糖化(余った糖が体内でタンパク質と結びつくこと。それによって、AGEs*という老化促進物質が出来ることが危惧されています)を防ぐ食生活が有効なことはよくわかります。しかし残念ながら、糖質制限が必要な人ほど糖質過剰な食生活を改善しようと思わないのです。「医者の不養生、健康産業の不健康」といった笑い話のような皮肉な話もあるほど、必要な人が必要なことができていない現実もあるということなのでしょう。逆に健康な人でダイエットする必要もない人は、しきりに糖質ダイエット にこだわっている気がします。医師の多くはそのことを危惧しており、また若い子が不必要な糖質制限をすることによって、将来的に妊娠したときの心配や、年取ってからの認知症のリスクが増えるなどといった問題も指摘されています。
変化する健康の常識を的確に把握する
また、現代の食生活は昔と比べるとかなり食品の種類も増え機能性の食品などもどんどん開発され豊かな食生活を送れているように思えますが、実は食品の摂り方に問題があり、また偏った食生活により栄養のバランスが非常に悪いと言う現状が露呈しています。
現在日本人の中で最も栄養失調が多いと言われている世代はどの世代だと思いますか?
サラリーマン、学生、子供たち? いえいえ、実際は20代の女性です。
ネットでダイエットに良い食品だとか、お肌にサプリだとか、一見健康に気をつけているかのように見える彼女たちの食生活は非常に乱れています。バランスが悪いのです。オメガ3脂肪酸が重要、DHAが大切、等々健康情報は世の中にいっぱい溢れています。ただそれらをどのようにバランスよくとっていくかということが重要であり、また、それを続けていくことが最も重要なのです。世の中でやはりの商品だけを追い求めてもダメです。
人間の体を構成する栄養と言えば多くの人が、肉、魚、野菜、果物、あるいはわかめや昆布、大豆といったミネラルやタンパク質の良質なものを取ろうとします。確かにその事は大切なことなのですが、豚肉、鶏肉、牛肉、魚といった体の元になる3大栄養素を含む食べ物というのはそれを体内で代謝するために、それぞれの食材ごとで分解や燃焼に必要なビタミンやミネラルの種類が違います。ですから魚だけ食べてればいい、あるいはトマトやブロッコリーなど野菜を摂ったからそれでいいということではなく、いろんな種類を少しずつ食べるということが大事なことです。
糖質、タンパク質、脂肪といった3大栄養素は肉や骨になるための燃焼効率が非常に良い栄養素です。一方、ビタミンやミネラルは消費効率が非常に悪い栄養素です。つまりビタミンB1の代わりはない、ビタミンCの代わりはない、だから日本人にとって必要な13種類のビタミンやミネラルをバランスよく全て取らなくてはいけないのです。でもそれは忙しい現代人にとってとても難しいことです。そういう時こそ食材の足りない部分をサプリメントで補うという考え方が生きてきます。サプリメントをとっているから野菜を取らなくていい。肉を食べなくていいという事でもありません。
また環境の変化の一つに、昨今の食べ物にやたら甘いものが増えてしまったと言う問題もあります。
野菜を例にとれば甘いトマトとか蜜がいっぱい入ってるりんごとか、そういった甘くておいしいものが売れる時代です。「甘い=美味しい」という勘違いが横行しています。でも本来、野菜に含まれている体に良い成分たちは、その多くが苦かったり、酸っぱ過ぎたり、匂いがきつくて食べづらい、といったものが多いのです。よくサプリメントの開発者仲間で話をすることがあります。「食べ物が美味しく、かつ食べやすくなっていった過程の中で、本来食物に含まれていた体に良い成分たちがどんどん削らされていっている、その削っていった成分たちを、また補うためにサプリメントが作られている」と。
なんと皮肉なことでしょう。
サプリを実感できる人は食生活改善がうまい人
サプリメントを摂取して、実感のある人と全くない人がいます。その違いはなんでしょう。
もちろん、栄養素が十分に足りていて、不必要な人がいっぱい摂取してもあまり効果が得られないと言う事はあり得るでしょう。でも最も重要な事はサプリメントを食べて効果が得られた人には共通の特徴があるということです。それは何かと言うと食生活を改善しているか、してないかということなんです。
普段しっかり食事をせず、忙しい生活をして、十分な休養や運動しない生活をしている人が、どれだけ体に良い機能性成分を含んでいるサプリメントを摂ったところでほとんど効果は出ません。でも正しい食生活をして普段から楽しく食事をし、運動もし元気に生活している人ほど、サプリメントを取ったときにその効果を享受できているのです。
例えばタンパク質やプロテインをしっかりとっても、スムージーをしっかり飲んでも、レジスタンス運動など、適度な運動をしてそれを消費しなければ、ただの残留物になってしまいます。サプリメントはお薬では無い、皆さんはよくわかってます。だからこそサプリメントは食物と一緒に取らなくてはいけないのです。何故、そうなのかはその作用機序の違いからはっきりとわかっています。そのメカニズムについてはまた今後お話ししていきたいと思います。
(文責 クラウターハウス代表、国際栄養食品協会副理事長、健康食品産業協議会理事 橋口智親)
<参考>
*フードファディズム
食べものや栄養が健康に与える影響を過大に信じたり評価すること
*サルコペニア
筋肉量の減少が急激で病気ととらえて対処すべき状態
*ロコモティブシンドローム
加齢に伴う筋力の低下や関節や脊椎の病気、骨粗しょう症などにより運動器の機能が衰えて、要介護や寝たきりになってしまったり、そのリスクの高い状態を表す言葉
*AGEs(最終糖化産物)
食事などで過剰に摂取した糖とヒトのカラダを主に構成しているタンパク質が結びつくことで体内に生成される老化物質の一つ
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