目次
ローズヒップ〜良質のビタミンCと旨味の隠し技!
ローズヒップ Rose Hips
ローズヒップはバラの原種で不老不死の秘薬。ビタミンCの爆弾と呼ばれるハーブです
学名:Rosa canina (ローザ・カニナ)
和名・別名:ドッッグローズ、野いばら、ハマナス
科名:バラ科
使用部位:偽果
植物分類と歴史
ローズヒップはハーブの一種でバラ科バラ属の果実だ。花は白~ピンクで、花びらが落ちた後に真っ赤な実(偽果)をつけ、偽果の中には約3mmほどの種子が10個ほど入っている。ブルガリアやチリをはじめ東欧、北欧などが原産の種や、ヨーロッパ北部、西部アジア、北アフリカなどにも分布する種など、数種の学名が存在する。生育地域や環境によって大きさ、形状、色が違うので、学名も産地によって、Rusa canina、Rusa rubiginosa、Rusa mosuquetaと分けられているが、一般的に薬用で利用されるのは、Rosa caninaが多い。また北海道~九州の海岸沿いで見られるハマナスもローズヒップの仲間である。
ローズヒッップの花(左)と果実(偽果)(右)
野生の群生地はチリのアンデス山脈の麓やヨーロッパの一部にしか残っておらず、現在は南米のチリが主な生産地となっており世界のローズヒップの約9割を担っている。
別名「ドッグローズ」と言われる由来は、ローマ時代に狂犬病によいとされたことから、ラテン語で「犬のバラ」を意味する名前がつけられ、また犬が散歩中に自らローズヒップを食べることから、英語ではそのまま「ドッグローズ」と呼ばれた。あるいはローマの兵士が狂犬病に噛まれた際に、バラの根で傷を治したからとか、古代ギリシャでもバラの根を煎じ狂犬病の理療に用いたという説や、またドッグはダッグ(Dag 短剣)の訛りでバラの棘をさしているなどなど、謂れも様々だ。
かの中世ドイツの最初の女医であり、医学・薬草学にたけ、音楽家、詩人でもあった修道女ヒルデガルド・フォン・ビンゲンの著書「フィジカ (自然学) 」にもエネルギーのお茶として、ローズヒップの処方が残されている。
一方、ローズヒップがヨーロッパに伝わっていったもう一つの説として16世紀にスペイン軍がインカ帝国を滅ぼしたことに端を発する「不老不死の媚薬」説というのも興味深い。
チリに自生するローズヒップの原種のバラ(ローサ・モスケータ)は、スペイン侵略に対して最後まで抵抗したとされる、ビオビオ地方に住むアラウカノ族によって「不老不死の媚薬」として祀られていた。この「不老不死の媚薬」を使った民間伝承はのちのインカ帝国の歴代の王が、手に入れようと果敢にアラウカノ族を攻撃するきっかけにもなったほど。ローサ・モスケータこそがスペイン支配者達が数世紀にわたり捜し求めていた「不老の秘薬」であったと言い伝えられている。*ロサはスペイン語で“バラ”モスケータは“小さな実”の意味。
成分ほか
ローズヒップの主な成分量(100g中)(日本食品分析センター分析)
成分 | 含有量 | 備考 |
ビタミンC | 942mg | レモンの20倍 |
β-カロチン | 4000IU | トマトの18倍 |
カルシウム | 913mg | 牛乳の9倍 |
鉄 | 7.30mg | ほうれん草の2倍 |
リコピン | 23.3mg | トマトの8倍 |
ビタミンA | 5110IU | トマトの18倍 |
安全性と相互作用
安全性:クラス1
相互作用:クラスA
(Botanical Safety Handbook 2nd edition アメリカハーブ製品協会(AHPA)収載)
学術データ(食経験/機能性)
<食経験>
ローズヒップが特に女性の間で人気を集めてきた理由として、美肌に効果のあるビタミンCの含有量にある。ローズヒップは別名”ビタミンCの爆弾”と呼ばれるほどビタミンCが豊富に含まれており、外皮にはレモンの20個分のビタミンCが含まれている。このビタミンCはバイオフラボノイドを20%含んだ天然のビタミンCである。
*バイオフラボノイドとはビタミンPとも呼ばれているフラボノイドの一種で、ヘスペリジン、ルチン、ケルセチンなどの成分もバイオフラボノイドに属する。
インカ帝国では、「不老不死の薬」として食されていたローズヒップだが、スペイン軍が16世紀にインカ帝国を滅ぼし、その薬がヨーロッパにもたらされ、当時の貴族たちは果実を砂糖漬けにして食していたようだ。
また18世紀のハーバリストとして知られる、ジョン・ジェラードは、「熟した果実には美味しい実がついているので宴会ではタルトが作られる」と記している。当時は果実から種を取り出し、柔らかくなるまで置き、漉し器で丁寧に漉してピューレにしていた。
ローズヒップのビタミンCが世界的に知られるようになった背景は第二次世界大戦にまでさかのぼる。物資の供給を絶つというドイツ軍の戦略により、イギリスは柑橘類の物資が不足していた。柑橘類は当時、ビタミンCを補給する重要な食材であったため、ビタミンC不足による壊血病が国中で起こるという危機感に駆られていた。そこで保健省では1941年からローズヒップ・シロップが子供達の栄養補給に配給されていた。現在でもこのシロップは家庭で作られており、果肉も煮て砂糖を加えたジャムとして食されている。
このような出来事がきっかけで、ローズヒップの高い健康効果が世界中に知られるようになった。その後ノーベル化学賞で知られるライナス・カール・ポーリング博士らが、1979年に「ガンとビタミンC」という著書の中で、ビタミンCを摂取すると健康維持やガンに対しての効果を得られると主張したことでアメリカに限らず世界中でビタミンCがブームとなっていくわけである
●良質なビタミンC
ビタミンCは熱に弱く加熱すると壊れやすい栄養素として知られるが、ローズヒップには熱からビタミンCを保護するといわれているバイオフラボノイド(ビタミンP)や酵素が含有されており、更にリコピンにより体内で吸収されやすくなっている。 またローズヒップ全体を摂取する(つまり食べる)ことで、ビタミン、ミネラルが同時に補うことができ、相乗効果から新陳代謝を促し、様々な病気予防、健康維持にも役立つ。マンガン、カルシウムなどの身体の生理機能の働きを良くするミネラルも豊富に含みペクチンや植物酸によって緩下作用も知られる。
<機能性>
●豊富な栄養素による抗炎症作用
また赤色のカロテノイドであるリコピン、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンEなどのビタミン類、ミネラル類などを豊富に含んでいるほか、炎症促進酵素シクロオキシゲナーゼの働きをやわらげる作用が知られており、抗炎症効果も期待されている。
*抗酸化作用や抗炎症作用に加え、変形性関節症改善や腸のはたらきを向上することによる便通改善、抗糖尿病作用や抗潰瘍効果が期待されている。
●機能性表示食品として
さらに、ローズヒップの種子にはポリフェノールの一種であるティリロサイドが含まれており、昨年、森下仁丹が機能性表示食品として申請(登録名:ローズヒップポリフェノールMJ)したことでも注目されている。このティリロサイドには、ミトコンドリア内で脂肪燃焼を促進する作用があることが確認されているため、ローズヒップの摂取によって脂肪の燃焼効果が期待できる。
*ローズヒップに含まれるポリフェノール・ティリロサイドは、肝臓や筋肉で行われる脂肪の代謝を促進するPPARαやAMPKという遺伝子を活性化させ、脂肪が燃焼しやすいように働くことが報告された。(消費者庁資料より)
また、ローズヒップの種子を含む丸ごとの成分を分析・研究した結果、ローズヒップの成分に体重増加を抑制する作用があることも報告ている。さらに、内臓脂肪の蓄積も抑え、また肝臓中の中性脂肪の量も抑制されたとの報告がある。
●海外のローズヒップ関連サプリンメントの現状
国内では、前述のビタミンC関連サプリや乳酸菌と組み合わせた機能性表示食品などが主流だが、海外での活用事例としても美容系が多い。NOW社など、アサイー、アセロラなどのナチュラルフルーツのビタミンCコンプレックス・パウダーサプリが目立つ。粉末状なのでジュースなどの飲み物に混ぜる手軽さが受けている。また濃縮エキス剤も多く販売されている。
あとはメディカルアロマで有名なプラナロム社のオイルタイプのサプリなどが知られている。リノール酸やリノレン酸に富むローズヒップオイルは美容効果が期待できるため、人気があるようだ。ことビタミンCに関しては、海外も国内も美容系サプリが主流のようだ。
<ハーブティーとコーディアル>
ローズヒップはバラが咲いた後に、緑色だった丸い果実が橙色から濃い赤色に熟すると収穫される。乾燥したローズヒップを熱湯で煎じてお茶として飲むローズヒップティーは、爽やかな甘味とほのかな酸味が人気だ。ローズヒップティーを昔から愛飲している北ヨーロッパでは、冬の間のビタミンC不足を補うためにローズヒップティーを愛飲しており「北国のレモン」と呼ばれて親しまれていた。ドイツでも、カルカーデ(ハイビスカス)の花を乾燥させて一緒に飲まれている。ローズヒップは水溶性食物繊維が豊富だが、飲んだ後の果実の部分には不溶性食物繊維が含まれているため食べることをお勧めする。食生活が偏っていて食物繊維が明らかに不足しているという場合は、ヨーグルトに入れたり、ハチミツをかけて食べるとトータルで食物繊維が摂取できる。腸内で善玉菌として働きてくれる乳酸菌系と合わせて摂取するのがさらによいと思われる。
またヨーロッパでは定番のコーディアル(ハーブシロップ)にローズヒップもよく利用される。砂糖で煮詰めるため保存性も良く様々な飲み物に加えて利用される。またネトルのようなミネラル成分の多いハーブと一緒にローズヒップを加えると昆布茶のような風味になる。エキス末をうまく利用して前述の脂肪燃焼効果も期待したダイエット昆布茶なんて商品開発も期待できそうだ。
<旨味の活用>
ローズヒップのティーを飲んでみるとどうもトマトのような味がするというという声を聞くことがある。実はそうなのである。
そもそも旨味成分といえば、日本のお家芸ともいえるわけだが、うま味を呈する物質は、主にアミノ酸系、核酸系、有機酸系に分けられる。
〈アミノ酸系うま味〉
たんぱく質自体は無味それを構成するアミノ酸には甘味、苦味、うま味などを中心としたさまざまな呈味がある。うま味を呈するアミノ酸の代表的なものは、昆布に多く含まれるグルタミン酸やアスパラギン酸が知られる。
〈核酸系うま味〉
核酸はヌクレオチドとも呼ばれるリン酸を含んだ物質。生物の代謝や運動エネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)が有名だ。うま味物質として知られるのは、煮干し、かつお節に多く含まれるイノシン酸、しいたけに多く含まれるグアニル酸など。
〈有機酸系うま味〉
有機酸の中でも酢酸、クエン酸、乳酸、コハク酸などが有名。この中でうま味を呈するものは貝類に多く含まれるコハク酸が知られている。また植物酸には食品のうま味を高める作用がある。
さて、実際の料理の世界では、うま味物質は単独で使うよりも、アミノ酸であるグルタミン酸と核酸系うま味物質(イノシン酸やグアニル酸)を組み合わせることで、うま味が飛躍的に強くなることが知られている。このような「うま味の相乗効果」は経験的に料理に応用されてきた。例えば日本料理のだしはグルタミン酸を多く含む昆布とイノシン酸が多いかつお節。西洋料理のフォンは玉ねぎ(グルタミン酸)などの野菜類と牛スネ肉 (イノシン酸)が使われてきた。
そこで、ローズヒップの旨味の話になるのだが、トマトと違って、ローズヒップに顕著なアミノ酸が含まれているという話はあまり聞かない。
しかし、ローズヒップのティーを10分近く抽出すると、たしかにうま味を感じるのだ。
ほのかな酸味(実際にはクエン酸のような強い酸味はなく、大方いくばくかの植物酸の酸味だろう)があたかもトマトピューレのような味わいを感じさせる。
またローズヒップには、糖質や脂肪酸も多く含まれているため、それらの成分が植物酸によってうま味を引き出しているのかもしれない。このような視点でローズヒップを研究している報告がないため、なんともいえないが、実際には、ローズヒップのパウダーとドライトマトのパウダーを組み合わせた「うま味唐辛子」が売られていたり、カレーにローズヒップのパウダーを加えるとコクが増すとか、煮込みハンバークなどの肉料理にローズヒップパウダーをくわえると相性も良く、美味しい深みが出てくる、ペースト状にしてパンやケーキの生地やクッキーに混ぜて焼いてもうま味がでて美味しい、などなど、様々な事例をよく耳にする。北欧では「風邪をひいたら飲みなさい」と言われる「ローズヒップスープ」もよく飲まれる。
スエーデンではNyponsoppa(ニィーポンソパ)と呼ばれている伝統的な飲み物だ。鍋に水を入れて沸騰させます。ローズヒップを加えてしばらく煮る。ローズヒップが柔らかくなってきたら別の入れ物に入れ替えて、ハンドブレンダーでローズヒップごとつぶし混ぜる。もう一度鍋に戻し砂糖とレモン汁を加え、少し煮詰めたら水で溶かした片栗粉を加えてとろみをつけて完成。うま味が増したスーブとして冬の定番らしい。
またローズヒップを煮込むことによる、うま味の感じ方のヒントとして、温度も重要な要素になっているようだ。人間の味覚は、食べものを口に入れたとき、その食べものの温度で味の感じ方に大きな変化が起こる。しかもその感じ方は味の種類によりさまざまだ。一般的に温度とうま味の関係に関しては、以下のように認識されている。
甘味:人間の体温付近でもっとも強く感じる。
塩味:低い温度で強く感じる。
酸味:温度により一定。
苦味:低い温度で強く感じる。
ある温度ではおいしいものでも、冷めるなどして温度が変わると、味の感じ方が大きく変わってしまう。結果、味のバランスが崩れ、まずいということになるわけだ。やはり料理は、おいしく感じる適温で食べることがもっともよいということだろう。たとえば、トマトなどの野菜やハーブなどの植物性食品の多くは煮込むことによって適度に糖質と脂質が混ざり合い、また植物酸がうま味を引き出し、ミネラル成分が自然の調味料となり、うま味物質が生まれ、そして適度なあたたかさがさらに美味しさを生み出す。
ローズヒップというと、どうしてもビタミンCばかりが取り上げられてしまいがちだが、もっとうま味成分の研究が進んでもらいたいと願っている。
最後に生徒さんから教わった、完熟ローズヒップパウダーを使ってのコンソメスープを紹介しておこうと思う。
普通のチキンスープ(動物性のうま味)にローズヒップのパウダーを加えて一煮立ちさせる。ローズヒップからの酸味とうま味がちょうど良い具合に引き出されたスープにみょうがやしょうがをちょっとくわえることで苦味が味を引き締め、お互いを高めあう、まさに相乗効果の出汁が効いたスープが出来上がる。ぜひ試してみて欲しい。
(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)
参考図書
「The Green Pharmacy James A Duke著
「The complete New Herbal Richard Mabey著」
「Botanical Safety Handbook 2nd edittion アメリカハーブ製品協会(AHPA)編集」
「メディカルハーブの辞典 林真一郎編集」
「ハーブの安全性ガイド Chris D. Meletis著」
「薬用ハーブの機能研究 CMPジャパン(株)編集」
「Fifty Plants that changed the course of History Bill Laws著」
「南米史話アラウカノ族の如く」天野芳太郎 著
「ヨーロッパの食文化」マッシモ・モンタナ―リ著 山辺規子・城戸照子訳
「中世ヨーロッパの生活」ジュヌヴィエーヴ・ドークール著大島誠訳
「マリー・アントワネットの植物誌」エリザベット・ド・フェドー著
「ハーブティーブレンドレッスン」ハーブティーブレンドマイスター協会編集
「うまさ究める」 伏木亨・未来食開発プロジェクト編著
「日本うま味調味料協会」ホームページ
データベース
Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版 Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
米国国立医学図書館 PubMed®
最近のコメント